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08.02.2013, apoptosis, bun, by .

『人間とアンドロイド、その境目がお前にはわかるかい』
『生きているとか、心臓がある、とかだけではないんだ』

『私はな、奏。決して人間を作らないことにしたんだよ』

 

これほどに走るのは久々だと感じる。急上昇する心拍数に連動し、自然と息が荒い。
背に掛けたベースの黒い袋を揺らしながら、見慣れていた筈の街を駆け抜ける。時刻はもうすぐ日をまたぐ。

 

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「やァ」
随分と親しげに声を掛けてきた数分前。
のっぺりと浮かび上がる青白い男は、青白い肌に白髪、晒された上半身は肉付きが最低限で、引き締まっている。一番異質に見えるファスナー付きの目隠しと張り付いたような笑みが周囲の気温を下げた気がする。
「名無しって言います」
煉瓦やらアンティーク調やらの外観の通りとはおよそ場違いな容姿で、場違いな調子で、場違いなモノを静かに引き出した。
切れかかった街灯の点滅に合わせ、一回、二回と鈍く光る。無骨かつ大振りの刃物を持つ腕は細く、しかししっくりと彼の手に収まる。
何から何まで、人間らしくない。
「お前、人間じゃないのか」
喉がはりつく。街灯は相変わらず点滅している。
しなるように振った右腕が、刃物の凶悪さを見せつける。
「キミにはそう見えるんだ」
「それは、違うということか」
じりじりと半歩下がりながら、振り返って走るタイミングを探る。男との距離は2、3m程度。
「どっちでもいいでしょ、そんなこと」
「そうだな。…どうでもいい」
その言葉と同時に身を翻す。直後に鳥肌が立ち、パキッと軽い音が首元で響いた。何も考える間もなく、本能的に足を動かす。

 

自宅の敷地に入ると同時に暗いまま半開きの倉庫に転がり込む。整えたい息をどうにか潜め姿勢を構えると、耳を澄ませた。
振り返った直後の干渉のみで、どうやらそれきり追ってきてはいないらしい。
ゆっくりと息を吐く。
一呼吸置いた後、首元にぶら下がっていたヘッドホンを見ると、真っ二つに割れていた。
首を狩るのも容易だったということらしい。

 

人型ロボット。アンドロイドあるいはガイノイド。人造人間。オートマトン。名やら概念やらはともかくここ数十年で飛躍的に発展した文化であり、存在。
ただ人の存在を共に、体の一部として、もしくは従事者として利用されるモノたち。
初期の文化発展に貢献を果たした祖父の言葉を思い出す。
幼い子に随分と難しいことを聞いたものだ。
『人間とアンドロイド、その境目がお前にはわかるかい』
『生きているとか、心臓がある、とかだけではないんだ』
「じゃあ、なにが違うの」
『私はな、奏。決して人間を作らないことにしたんだよ』

 

「…完全な心を持ってはいけないこと」
しかし、あの男は。目的も、行動も理解が及ばない。人間なのかすら、理解できない。
倉庫のシャッターを閉じ電気を点けると、安心からか、そのままずるずると座り込んだ。

「どちらにせよ質が悪いってことか…」

 

 

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行き当たりばったりで始めてみたよホホホ
言わせたい言葉とかおおまかな骨組み程度なのでどう肉を付けたものか 文章ってむつかしくて楽しいね

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